守られながら開かれる、あわいの空間
木々への眺望がある候補地を建主と巡り、辿り着いたのが緑道に面したこの敷地だった。川が暗渠化されてできた緑道は南北の台地に挟まれた谷地にあたり、敷地も道路から緑道へ向かって1mほど下がっている。敷地は袋小路の最奥にあるため付近に車の通過交通はなく、都市の喧騒から離れた静かな環境であった。
一方、緑道には歩行者の往来があり距離も近く、ただ開くのではなく適切な関係を築く必要があった。そこで緑道に直交する壁柱の列柱を設け、壁柱に沿った視線の抜けを確保しつつ斜め方向の視線を遮ることで、守られながら開かれる空間を目指した。同時に壁柱は構造上の要となり、半間間隔の柱割りは耐熱強化ガラスによる大きな開口を可能にしている。平面は不整形な敷地に沿うように雁行させ、敷地形状がもつ対角線方向の抜けを活かした。
断面計画では地形に呼応し、緑道へ視線を導く2枚の屋根を架け、厳しい斜線制限を躱しつつ、低い軒で北側建物からの視線を遮り、落ち着いたスケール感を実現した。また敷地は内水氾濫による浸水が想定されているため、高基礎にしながらも、量塊感のあるコンクリートで内部を囲い込むことによる安心感をもたらした。
敷地によるさまざまな条件に向き合った結果、建ち現れたのは雁行する列柱がつくる回廊のような空間であった。回廊は古くから異なる領域を隔て繋ぐ役割を果たしてきたが、ここでは街・緑道と住宅が接するあわいの空間として存在する。
建主は、この家では時間の流れがゆっくりと感じられると語った。壁柱による奥行きのある開口は、緑道と室内という異なる領域を際立たせ、風に揺れる緑道の木々や人の動きを鮮明に切り取る。一方、室内の静けさはその対比によって引き立ち、まるで洞窟の中から外界を眺めるような初源的な感覚と共に、意識は今という瞬間へ開かれていく。
かつての川は人々が行き交う緑道へと姿を変え、この家もまた、庭木の成長と共に緑に包まれていくだろう。こうした変化と時間の流れの中で、建築が変わらず人の感覚を「今」へと導く存在となることを目指した。