長野県小諸市に建つ家族4人のための住宅である。
クライアントの要望は、バーベキューが出来るテラス、眺望の確保された浴室、薪ストーブをそれぞれ設けたいというシンプルなものであった。
敷地は浅間山の裾野に位置し、南側に千曲川の支流に沿って広がる雑木林を、北側遠景に浅間山を望む事が出来る。雑木林の風景を取り込むことは自然な流れであったが、どのように取り込むかが課題となった。
南側の雑木林へ向かって緩やかに傾斜する敷地を歩くと「距離」や「視点の高さ」によって雑木林の印象は変化し様々な表情が感じられ、そのような体験を暮らしの中に取り入れたいと考えた。
建築の構成は、敷地の傾斜に沿う様に床レベルの異なる2つのボリュームを併置し、滞在時間が長い居間・子供室等を南側へ、寝室・水廻り等を北側へ配置した。南北のボリュームの床レベルは半階ずつずれ、それらのレベル差を繋ぐ様に中央に階段を設けている。生活の中でいくつかの床レベルを行き来することで、視点の高さと共に見える風景も変化する。
スキップフロアの生活において移動することが不便に感じる事のない様、諸室の配置、動線については、特に留意して計画を行ない、階段は登りやすい勾配となる様配慮した。
開口部については、別荘とは違い長い時間を過ごす住宅である為、風景をパノラマビューで一様に切り取るのではなく、各部屋の性質に合わせて様々な大きさ・プロポーションの窓を設け、部屋ごとに雑木林の多様な表情を感じられることを目指した。
また階段室・寝室・ゲストルームからは北側へ広がる浅間山の風景を望む事が出来る。これらの各空間からの眺望が、生活の中で抑揚のある一連の流れとして感じられる様に意図している。
道路側からは吹き抜けのテラスによってフレーミングされた雑木林の風景を垣間見る事が出来る。濃いグレー色の外壁によって切り取られた雑木林の風景はより鮮やかに感じられ、新緑、紅葉の季節は殊更である。
敷地で感じた光は、透明感と僅かに翳りのある北国の光であった。
それに相応しい、静けさと穏やかさが感じられる空間となる様、各部の寸法、素材や色味の検討は慎重に進められた。
出来上がった空間から望む雑木林の風景は、着工前のそれに比べて、より強く、より美しく感じられた。この住宅が、四季の移り変わりを受け止め、住まい手である家族、そして周辺の風景と共に年を刻んでくれることを願っている。